1995/11/11: 荻窪の韓国料理、南漢亭

辛ミシュランの取材を兼ねて行きました。 以下、そのときの生原稿(辛ミシュランではかなり削られています(笑))


◆仕事で食事だ!

「辛ミシュラン」の原稿依頼、取材で食事ができる、もちろん二つ返事でOKです。かれこれ6年間、毎週土曜日欠かさず行ってきたESDお食事会、「遊びで食べてるんじゃないからね」が口癖の我々ですが、いよいよ本当に遊びではなく仕事で食べるのです。
最初の打ち合わせでアスキーに行く日も、頭の中は食事のことでいっぱい。食べ物本の打ち合わせですから、当然、何か美味しい物を食べに行かないわけはありません。インド料理か中華料理か、どんな美味しい物が食べられるんだろう。そういえばアスキーがまだ青山にあった頃、何度か連れて行ってもらった飲茶屋さん「COX-TOP」、あそこは美味しかったな。そんな事を考えながら初台に到着。ちなみに青山の「COX-TOP」はもうありません。残念。
今回の仕事の内容は、電話でアポをとってお店に行って、店主の話を聞いて料理を食べて、原稿を書く。要はそれだけ。6年間、毎週やってきたことと大差ない。趣味か仕事か、自腹か経費か、それだけの違いです。美味しいお仕事。最初はそう思いました。しかし、既に取材に行った他の著者の話を聞くと、どうもそう美味しいことばかりではないらしい。店主の話を聞く。どうやらこれがくせ者らしい。
言われてみればそうです。料理屋の主人。それもただの料理屋ではありません。エスニック料理屋の主人と言えば、一癖も二癖もあるオヤジがいても不思議ではありません。取材に行って、店主に説教されて帰ってきた著者もいるらしい。そんな話を聞かされると、お気楽な我々も少しばかり不安になったりもします。

◆取材アポとり

さて前置きが長くなってしまいましたが、紹介するお店は、荻窪にある韓国家庭料理の「南漢亭」です。
まずは手順通り電話でのアポとり。
毎週食べ歩いているとはいえ、我々の本業はコンピュータ、飲食店取材のアポとりは初めてです。予約を入れる電話とはわけが違います。ドキドキしながら電話すると、案の定、気難しそうなオヤジが出た!エイ、切ってしまえ!というわけにはいきません。
無事取材のアポはとれたものの、やはり気難しそうな店主が気になります。説教されたらどうしよう。石焼きビビンバの器を素手で持たされたらどうしよう。不安な気持ちは膨らむばかりです。
取材は11月11日(土曜日)の午後4時から、いつものお食事会常連メンバのBとMのふたりで行くことにしました。お店が始まる前に店主に話を聞いて、それから食事です。
お食事会常連メンバのKくんも、韓国料理なら是非とも行きたいということでしたが、メンバ中でも一番のウンチクくんのKくん(ウンチくんではありません)、もし余計なウンチクをたれて店主を怒らせるようなことにでもなったら大変です。今回はKくんには我慢してもらうことにしました。ちなみに、Kくんは、鈴木蘭々に似ています。

◆ドキドキの取材当日

取材当日、約束の時刻の約1時間前、Mくんに電話するとまだ寝ていた。危ない危ない、もう少しで寝坊、遅刻するところです。遅刻の罰で、石焼きビビンバの器を素手で……。
新宿から中央線快速でふたつ目、中野の次が荻窪です。目指す「南漢亭」は荻窪駅から歩いて5分ほどです。
荻窪へ向かう電車の中でも相変わらず気難しいかもしれない店主のことが気になります。気のせいか、なんとなく胃も痛い。こんなことでは辛い物は食べられないかもしれない。不安は増すばかりです。
そういえば、まわりの雰囲気も何か違う。いつもの土曜日と何かが違う気がする。いやな予感。あ、第2土曜日で女子高生が少ないだけか……。いや、それだけじゃない。男子高生も少ない。当たり前です……。

荻窪駅改札午後3時50分、予定通りMくんと落ち合い、遅刻はしないですみそうです。第1関門突破。
駅を出て歩くこと数分、お店が見つからない。通りすがりのオバサンに聞くと直ぐに分かりました。「南漢亭」、近所でも有名か?いや、気難しい店主で有名なのかも。ドキドキ。

お店を覗くとお客さんは誰もいません。開店は午後5時半、まだ午後4時です。お客さんはいなくて当然でした。
「こんにちは。Mと申しますが、取材にうかがいました。」
奥から出てきた店主と思われる男性は、それほど気難しそうでもなく、一安心。いやいや、まだ油断はできません。

まずは名刺交換。あ!名刺がない!まずい怒られる!いやいやそんなことでは怒られません。名前と連絡先をメモに書いて渡して、なんとかピンチを脱出。しかし、怪しい第一印象を与えてしまったのは間違いありません。まだまだピンチ、危ない状態です。

さて次は取材の主旨、本の内容の説明です。

M:都内のエスニック系、辛い物が食べられるお店を中心に紹介するといった内容で、本の題名は「辛ミシュラン」と言いまして……
店主:うーん。うちは特に辛いというわけではないですよ。
まずい。明かにご主人少し気分を害しているような雰囲気です。Bはメモに専念するふりをしつつ、全てMくんにおまかせ状態です。うまく切り抜けてくれ。怒らせないでくれ……。
M:あ、はい。特に辛いだけというだけではなくて、仲間うちで美味しいと評判のエスニック系のお店を紹介するということで、「南漢亭」さんもということになったわけです。はい。「辛ミシュラン」という名前も、まあ洒落というか、なんというか、そういうことなんです。
本の名前が「辛ミシュラン」。怪しい。書名は出さない方がよかったかもしれませんが、本の内容説明は早々に切り上げ、なんとか怒られずに話を聞くことができました。

店名「南漢亭」の由来は、ソウルから東南に30kmほどのところにある「南漢山城」からとったものだそうで、その近くにご主人のお父さんのお墓があるそうです。
韓国料理研究家で料理教室などをしていたご主人のお母さん(趙重玉さん)が、7年ほど前に始めたお店です。荻窪で始めた理由は単純に自宅に近いからだそうです。

お客さんは、主に家族連れや女性のグループが多く、男女の比率では、6対4程度で女性が多く、ご主人のお母さんが出している本を見たり、雑誌などの紹介記事や口コミなどで、近所だけでなく遠くから来る人も多いとか。韓国人のお客さんも全体の1割程度いるそうです。
今までに来たお客さんの中で変わった人と言えば、石焼きビビンバの器を手で持って食べようとしたお客さんがいたそうです。
韓国料理では、元々器を手で持って食べる習慣はありません。器は置いたまま、ご飯やスープはスプーンで、おかずは箸で食べます。日本の食文化も、元々は大陸、朝鮮半島から伝わった物ですから、昔はやはり器を置いてスプーンでご飯やスープを食べていたのですが、いつの間にか茶碗を手で持って食べるようになったとか。
しかし、石焼きビビンバの器を持とうとしたお客さん、火傷しなかったのだろうか。ちょっと心配ですね。

料理の特徴は、一言で言えば、韓国の家庭料理、ソウルの家庭料理です。最初にも言ったように、辛さを求めて来るタイプのお店ではありません。もちろん中には辛い物もありますが、子供から大人まで食べられる家庭料理。どちらかというと薄味なソウルの家庭料理のお店です。
日本で韓国料理と言うと、どうも焼肉屋というイメージを持たれがちですが、実際の韓国料理、韓国の家庭での料理は、野菜が6割、次は三方を海に囲まれていることもあって魚、そしてその次に肉という感じなのだそうです。日本人が、天ぷら、すき焼き、寿司ばかり食べているわけではないのと同様、韓国人が毎日焼肉を食べていたりはしません。
そもそも焼肉屋の始まりはホルモン焼き、安い内蔵を焼いて食べさせる店で、韓国料理とはあまり関係はないらしいです。
韓国料理は、西洋料理と比べるとイタリア料理に近い物で、イタリア料理のベースがオリーブオイルなら、韓国料理のベースは胡麻油です。また、日本料理と中華料理のどちらに近いかと言えば日本料理に近く、胡麻油とスパイス、各種の唐辛子を使って、素材の味を引き出す料理が韓国料理です。
日本では一般的には唐辛子と言えばただ辛いだけで、色々と種類があるわけではありませんが、韓国では、辛い物、辛くない物など、色々な種類の唐辛子があり、それらをうまく使い分けて料理をします。お店で唐辛子は、韓国に直接仕入れに行っているそうです。
他の食材、肉や野菜などは日本で手に入る物を使っていますが、日本の野菜は韓国の物に比べて水分が多く、そのあたりは料理の仕方で調節しているそうです。
また、料理を盛りつける器も、韓国などから韓国料理に合う物を調達しているそうでs.韓国料理は色彩的にはどちらかというと地味なので、器が派手だと器に負けてしまうので、料理に目が行くように、器はあまり色彩が派手ではない物を使うとのことです。

さて料理ですが、初めてのお客さんは、色々な物が一通り食べられるコースを頼むのがよいだろうということです。
コースには「梅花膳(12,000円/要予約)」、「梨花膳(8,000円)」、「綿花膳(5,000円)」の3種類があり、「梨花膳」か「綿花膳」を頼むお客さんが多いそうです。
今回は「綿花膳」です。経費で食事、美味しい仕事ということで引き受けた我々も、根は小心者なのです。

「綿花膳」コースは、「雑菜」、「オイキムチ」、「カボチャかゆ」、「貧者煎」、「ナスのキムチ」、「白菜のキムチ」、「ナムル」、「焼肉」、「にこごり」、「ネギの煎」、「クッパ」、「デザート」です。
「雑菜」は、春雨と野菜の胡麻油あえで、胡麻油の風味が食欲をそそります。
「カボチャかゆ」は、カボチャとご飯をすり潰してポタージュ風にした物で、他では味わえない料理のひとつです。カボチャの甘味はしつこくなくさっぱりしています。
「貧者煎」は、緑豆の粉で作った、キムチと豚肉が入った韓国風のお好み焼きです。さっぱりした独特のタレを付けて食べます。
「ナスのキムチ」も他ではあまり食べることのできない料理ではないでしょうか。コリっとした歯ごたえと、ピリっと効いた唐辛子の辛さが美味しい。
「焼肉」は、肉の他にナス、ズッキーニ、ニンジン、シシトウ、椎茸、タマネギなどの野菜を、加熱した石の平らな鍋で焼きます。加熱した石の上で一気に焼くことでうまみが逃げず、石の表面の微妙な傾斜に沿って、余分な油は鍋の周りに彫られた溝に流れる仕組みになっています。焼肉の石鍋を温めている間に「にこごり」が出てきますが、これを焼いてはいけません。
「ネギの煎」は、「貧者煎」と同じタレで食べるネギの玉子焼きです。 「クッパ」は、よくある焼肉屋の胡椒がやたらに効いていて塩辛いだけの物とは違い、非常に味わい深いスープで美味です。スープは残らず飲み干します。
「デザート」は「五味子(ごみし)」と栗のお菓子。「五味子」は漢方のゼリーで、甘さ控えめ、さっぱり、プルルンです。

食事中やデザートについて出されるお茶は、トウモロコシのお茶です。

これで取材は終わり。店主に怒られることもなく、石鍋を抱かされることもなく、無事終了です。めでたしめでたし。

当日撮った写真はこちらです


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